2つの生前契約の新活用法

これまで述べてきました2つの生前契約の活用については、一般的な高齢世帯と子供世帯の家庭をイメージしながらの活用法でしたが、ここでは、新しい活用法のご紹介をしていきます。

(1)中小企業オーナーの、スムーズな事業承継の備えとして

中小企業オーナーが、中長期的な事業承継プランを立てる上で、判断能力低下に備える移行型任意後見契約の活用は、重要なリスク管理のひとつといえます。
備えをせず認知症になり(法定の)被後見人となった場合、オーナー所有自社株の議決権も行使できず、取締役としての欠格事由に該当し退任せざるを得ません。 一方、任意後見契約を結んでおけば、任意後見契約がスタートした場合でも、取締役としての欠格事由とされることはありません。

事業承継対策の観点からは、任意後見契約の中で、「後継者を代表取締役に選任するための株主総会における議決権行使」を、代理権の中に具体的に盛り込んでおくことが重要です。

会社法310条で代理人の議決権行使が認められていますが、代理人資格を株主に限定している場合は、代理人が株主でないと議決権が行使できませんので注意が必要です。代理人を複数人選任しておくこともできますので、株主資格を有する者とそれ以外の複数人を選任しておくことも有効です。
併せて「オーナー所有の自社株を後継者に相続(遺贈)させる」旨の遺言公正証書での備えが必須となります。

遺言公正証書がない場合、オーナー所有の自社株は、法定相続人の共有状態となり事業承継させたい子供等への経営支配権の集中が困難となります。その結果、相続人間での後継者争いが生じ、会社経営に支障をきたし廃業に追い込まれるケースも少なくありません。自社株は、全て事業を承継する子供又は従業員等に遺言で承継させ、それ以外の子供には他の現金や不動産等の財産を承継させるなどスムーズな事業承継実現の為には、生前の入念な準備が必要となります。

(2)シニア世代の婚姻届代わりとして

「(離婚又は死別で)ひとりでいるのが寂しい」「一緒に暮らせる相手がほしい」

高齢核家族化が進む日本では、配偶者との離婚や死別を経験したシニア世代の婚活が広がっているようです。
子供世帯との同居が少なくなったことが主因ですが、シニア世代の婚姻は、婚姻相手と新たな家族関係(=新たな法定相続人が発生)が生じることから注意が必要です。
相続人が全くいないシニアの方であれば問題は少ないですが、婚姻するシニアに子供等の法定相続人がいる場合、その相続人からすれば、大きく相続分が変動してしまいますので、将来のトラブルの種になることは目に見えています。

そこで本サイトで提案する2つの生前契約の活用です。婚姻したい相手と婚姻届の代わりに互いに任意後見契約を締結しておけば、新たな家族関係も発生させず、パートナーであることの証明も可能となります。 (パートナー相互の氏名・住所及び代理権の範囲を記載した目録が登記されます)
更に財産をパートナーに遺したければ、遺言公正証書でパートナーに遺贈すれば、希望は叶いますので2つの生前契約の新活用法として有効です。

(3)高齢おひとりさま同士の身元保証人代わりとして

2つの生前契約は、おひとりさま、特に年々平均寿命が延びる高齢女性同士にも活用できます。
直近の国勢調査では、65歳以上の一人暮らしの人数は、男女合計で479万人と5年前に比べて24%も増えています。増加傾向は今後も続き、2035年には762万人に達すると予測されています。

おひとりさまのお困り事のひとつとして、病院への入院時や、老人ホーム等の高齢者住宅への入居時、身元保証人を求められることです。身寄りがない、身寄りがあっても頼りたくない、頼める人がいても高齢で頼めない等々の理由から、身元保証人がいない方が多くなってきています。

病院や高齢者住宅サイドが身元保証人を求めるのは、入院費用や施設利用料の不払いに備えるのは勿論のこと、万一亡くなった場合の遺体の引取りと、残置物の引き取り先を確保しておく為です。どうしても身元保証人がいないような場面で、入院や高齢者住宅へ入居するおひとりさまが、代理人と任意後見契約を締結していると、その代理人が身元保証人の代わりとしてサインをすれば、認めてくれる医療機関や高齢者住宅も多いようです。

またおひとりさまの一人暮らし中に急な入院が必要になったりした場合、助け合う約束を友人同士でしているケースは、特に高齢女性のおひとりさまに多いようです。しかしながら果たして、これで万全でしょうか?
本人確認が厳しくなる一方の社会の中で、その友人に何かあったときに、権限を証明する書面や委任状もなければ、金融機関や役所・病院他へ、友人が代わりに手続きしようと思ったとしても、スムーズな対応は期待できないでしょう。ここでも2つの生前契約が活用できます。
おひとりさま同士で任意後見契約を締結し、互いに元気な時の意思を記した公正証書及び登記事項証明書を持ちあうことで、「もしものとき」に迅速に動くことが可能となります。
更に財産を友人に遺したければ、遺言公正証書で友人に遺したい財産を遺贈すれば、希望は叶いますので2つの生前契約の新活用法として有効です。

注)1
本サイトで提案する移行型任意後見契約には、
①財産管理委任契約
②任意後見契約(認知症等により判断能力低下後、発効)
③死後事務委任契約が盛り込まれています。
実務ではこれら①から③の契約を1通の公正証書にまとめて作成することが一般的なことから、別途作成する遺言公正証書と併せて、2つの生前契約としています。
①~③の契約をまとめて表現するときは「移行型任意後見契約」、それぞれの契約を指す場合は「財産管理委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」と表現しています。

注)2
以下、本サイトでは、エンディングノートに書いた希望を実現させたい人を「本人」、その実現をサポートする人を「代理人」と表現しています。

※当事務所オリジナル移行型任意後見契約と遺言文例(7パターン)も掲載しています。